文部科学省が 2021 年度の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査 結果」を先日(2022 年 10 月 27 日)、公表した。
それによると、いじめの認知件数は、前年度より 19.0%増加して 615,351 件(前年度 517,163 件) に急増し、不登校も大幅に増加している。
前年度(2020 年度)は、コロナによる一斉休校や感染防止対策の実施などによって、いじめの認 知件数は 15.6%減少し、517,163 件(2019 年度 612,496 件)と急減していた。
急増した理由について、文部科学省は次のようにまとめている。
「令和3年度は新型コロナウイルス感染症の影響が続き、感染を予防しながらの生活となっ たが、部活動や学校行事などの様々な活動が徐々に再開されたことにより接触機会が増加する とともに、いじめ防止対策推進法におけるいじめの定義や いじめの積極的な認知に対する理解 が広がったことなどで、いじめの認知件数が増加した。」
ちなみに、急減した 2020 年度のいじめの認知件数に関しては、次のように指摘していた。
「令和 2 年度は新型コロナウイルス感染症の影響により,生活環境が変化し児童生徒の間の物 理的な距離が広がったこと, 日常の授業におけるグループ活動や,学校行事,部活動など様々な 活動が制限され,子供たちが直接対面してやり取りをする機会やきっかけが減少したこと,年度 当初に地域一斉休業があり夏季休業の短縮等が行われたものの例年より年間授業日数が少ない 学校もあったこと,新型コロナウイルス感染症拡大の影響による偏見や差別が起きないよう 学 校において正しい知識や理解を促したこと,これまで以上に児童生徒に目を配り指導・支援した こと等により,いじめの認知件数が減少したと考えられる。 生活環境や行動様式が大きく変化 し,発見できていないいじめがある可能性にも考慮し,引き続きいじめの早期発見, 積極的な認 知,早期対応に取り組んでいくことが重要である。」
いずれも、急減や急増の理由を、コロナの影響といじめの積極的な認知によるものとしているが、コロナの影響に関するとらえ方は、まるで正反対のとらえ方である。2020 年度はコロナで急減、 2021 年度は急増である。いじめの積極的認知は変わらない。
たしかに、同じコロナの影響といえども、一斉休校などの授業日数そのものの減少や学校行事、 部活動などの大幅な制限は 2020 年度だけなので、この急減、急増を統一的に理解するには、コロナの感染対策の強弱とみていい。強力な感染対策のときは、いじめが減少し、感染対策が緩む と、いじめが増加する。コロナが収束して、感染対策が必要なくなったときを考えるとぞっとす る。
これをちがった角度からみると、学校が「普通」に開いている期間の問題ともいえる。タブレットによるオンライン学習の広がりもあるが、不登校の急増との関連はあるとはいえ、基本的にはいじめの急減、急増と関連しているとは思えない。
学校が「普通」に開いている期間そのものが急減、急増と深くかかわっていると考えると、いじめの問題の深刻さが浮かび上がってくる。年々、少子化が進行し、子どもの数が減っていることも考えると、一段と深刻である。
運動会や宿泊体験学習、修学旅行などが開催され、グループ活動や部活動なども「普通」に行われる学校では、いじめは減少しないことになる。集団活動によるストレスや、子どもどうしのぶつかり合いが避けられないからである。
いじめの増加をどう食い止めるか。難しい課題であるが、いじめの背景に何があるかをつきとめながら、その構造にくさびをうちこむ取り組みが必要のように思える。
その点にかかわるポイントについて2点だけ指摘しておきたい。
1点目は、個性化が進行する子どもの世界で、他者への寛容さが失われてきていることである。 多様性の時代だといいながら、大人も子どもも多様性をみとめようとしない現実がある。
それは、あるべき姿の画一的なおしつけが多いからである。学校の世界も同様である。学校での 行動のきまりは多く、きまりのしばりが強いと、ストレスも増すし、決まりを理由に子どもどう しのぶつかり合いも起きる。
2点目は、土井隆義「つながりを煽られる子どもたち」(岩波ブックレット)で指摘されている、 友だちとのつながり依存の問題である。つながっていないと不安でたまらない子どもたちは少な くない。孤立への不安を解消するために、仲間に同調して「シカト」に走ったり、友だちの誹謗 中傷を仲間と一緒に行ってしまう。つながり依存の問題は、個性化と深くかかわっている。多様 な個性のひろがりのなかで、自分の個性を確認、肯定するためには友だちとのつながりが欠かせ ない。子どもひとりひとりが「キャラ化」する現象もそこから生じる。仲間とつながりながら、 自分の個性を固めるためには、ひとりひとりがちがった「キャラ」となる必要がある。悲惨なの は「いじる、いじられる」関係のなかで、いじられキャラになってしまった子どもである。子ど もの世界ではいじりはいじめとちがうという認識は少なくないが、「いじる、いじられる」関係が 一方的で固定されてしまった場合、いじめと変わらない。いじられキャラの子どもは、本音では 嫌がっている。
他者への寛容を取り戻し、孤立への不安を解消しながら、仲間とつながっていく方向を見出していくことが、いじめの克服、減少へと進んでいくことになるのではないであろうか。
他者への寛容を取り戻すためにも、子どもたちの人権感覚の共有が不可欠である。子どもたちに届く、人権学習の積極的な展開を学校、教育委員会などの関係機関に強く要望したい。
孤立への不安を解消しながら、仲間とつながっていくには、固定されたグループ、仲間だけでなく、多様なグループ、仲間とつながっている必要がある。つながりのチャンネルを増やすためにも、地域におけるさまざまな出会いを活性化し、そこに子どもたちがつながる政策の展開がほしい。
(山本馨)
*文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査結果」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1302902.htm