今年(2022年)4月、新潟市子ども条例が施行されました。昨年 12 月に議員立法の形で市議会 に提出された法案で、全会派一致で可決、制定された条例です。新潟県では、上越市に次いで2番目と なります。 新潟市では、これに先立つこと10年ほど前に、子どもの権利条例の制定をめざした市民主体の検討 会を関係部局のもとに設置し、検討を行っていました。私も、この検討会に何度か参加したことがあり ます。新潟大学法学部教授(当時)を座長に、活発な議論を重ねながら、一応の素案をまとめ、関係部 局に提出して検討会は終了しました。その後、この素案をふまえて、新潟市がまとめあげた議会への提 出予定の法案は、残念ながら、見送られました。
こうした経緯があるだけに、全会派一致で可決・制定されたことに、市議会の変容を感じるとともに、 この条例案をまとめたワーキンググループの議員さんたちの努力と健闘に称賛をお送りしたいと思いま す。制定された条例は、子どもの権利保障の重要性を痛感していた議員さんたちによって、一からつく りあげられたもので、先進自治体の条例などの研究を重ねて策定されたものです。ただ、失われた10 年を取り戻せるのか、それは今後の新潟市の取り組みにかかっているのではないでしょうか。
子どもの権利に関する総合条例を制定している全国の自治体は、子どもの権利条約総合研究所のまと めによれば、2022年4月現在、61自治体です。公布の日付順では新潟市は54番目になります。 新潟市は「子ども条例」という名称ですが、内容的には「子どもの権利条例」で、素案に対する市民対 象の意見公募では、内容的に「子どもの権利条例」なのだから、名称を変更してはどうかという意見が 多数、寄せられていましたが、名称は変更になりませんでした。凍結された過去の素案のトラウマが 残っていたのかと思わざるを得ません。
内容的にみると、新潟市の条例の特徴は、子どもの権利について、幅広く、かつ可能なかぎりわかり やすく、具体的に規定しているところです。
多くの条例は、国連「子どもの権利条約」(1994 年批准)に準じて、「生きる権利」「育つ権利」 「守られる権利」「参加する権利」の4つを規定していますが、新潟市の条例は、「安心して生きる権 利」「豊かに生き、育つ権利」「自分らしく生きる権利」「身近なおとなとの受容的な関係をつくる権 利」「社会に参加する権利」の5つにまとめ、それぞれの権利規定では、さらにいくつかの内容の権利 をさだめています。たとえば、「自分らしく生きる権利」では、
- 個人として尊重され、他者との違いが認められること
- 不平等な扱いを受けないこと
- プライバシーが守られること
- 自尊心を傷つけられないこと
- 可能性を大切にされること
- 自由に独りでいたり、仲間といたりすること
私が注目したのは、「身近なおとなと受容的な関係をつくる権利」です。豊かに生き、成長発達する ためには「身近なおとなと受容的な関係をつくる権利」が保障されなければならないとして、
- 自分の思いや願いを自由に表明できること
- 自分の思いや願いをありのままに受け止めてもらい、一緒に考え、適切に応えてもらうこと
- 理由を知り、納得できるように話をしてもらうこと
- 子どもだからという理由で、理不尽な扱いをされないこと
身近なおとなといえば、保護者であったり、学校の教師たちがまずあげられます。現状では、受容的 な関係は十分にできあがっていないことがたくさんあります。いじめの相談を受けていると、学校との 関係がこじれていて、学校の先生がいじめの事実を認めてくれない、わかってくれないケースがほとん どです。逆にいえば、だからこそ、こうした権利規定が必要なのでしょう。
近年、学校での取り組みも始まっている、こころとからだの性が一致していないトランスジェンダー の子どもたちの問題も少なくありません。身近なおとなが自分の思いをありのままに受け止めてくれる ならば、もっと苦しまなくてもすんだと思います。
もともと法律は、あるべき理念や目指す方向を宣言したものだと考えれば、現実はその逆であること を私たちはしっかり認識する必要があります。
その意味では、この条例の施行を契機に、子どもの権利保障の施策が進展することを期待するととも に、この条例では「体制の構築」にとどまっている「子どもの人権救済の仕組み」が早急に設置され、 地域の多様な諸団体と連携しながら、いじめや虐待、差別などの被害にあっている子どもたちの人権侵害の救済、権利回復がすすむことを願わざるを得ません。
(山本馨)
<新潟市子ども条例>
https://www.city.niigata.lg.jp/smph/kosodate/ninshin/info/kodomo_jourei.html#cms01gaiyou
https://www.city.niigata.lg.jp/kosodate/ninshin/info/kodomo_jourei.files/01_kodomo_jourei.pdf