近年、私たちの相談支援の活動が一つの困難に直面している。それは、いじめ被害の保護者から、いじめが起きた際の学校側との話し合いに同席を求められたケースで、学校側から支援者の同席は認めないと言われ、同席ができなくなっている。
はじめて、自分の子どもがいじめに遭遇して、つらい・苦しい状況におかれ、学校にも通えない事態に陥っている保護者にとって、保護者だけで学校との話し合いに臨むのは心細いかぎりである。
どういう話し合いをするべきなのか、どんな対応・取り組みを学校にお願いすればいいのか、すべて学校まかせでいいのかなど、話し合いに臨むにあたって、あれこれと考え、悩むばかりである。
そんな状況で、私たち子どものオンブズにいがたのような、いじめの相談支援にあたっている市民団体に助けをもとめるのは自然の流れかと思う。私たちは、その相談に対して、これまでの、保護者と学校側との間にたって調整する活動の経験を活かして、保護者に今後の対応についてアドバイスするが、保護者からは自分たちだけで学校側との話し合いを行うよりは、一緒に同席してほしいとの要望が必ず出てくる。
以前は、そうした要望があって、保護者と一緒に学校に出向き、調整活動を行うことが普通のようにできた。ところが、ここ数年、学校側から断られる事態が続いている。より正確に言えば、学校は拒否していないが、教育委員会と相談したところ、断ってくるケースがほとんどである。理由は、個人情報に関わる話し合いになるからとのことである。
保護者からの相談をうけて、当該いじめに関する個人情報は、同席するしないにかかわらず、すでに保護者から私たちに提供されている。仮に、保護者だけの話し合いを行っても、どんな内容だったかは、あとで保護者から私たちに提供される。私たちも守秘義務については遵守する当然の義務があるだけに、信用されていないと思えてならない。
かつては、調整活動が成功して、保護者も満足できる解決ができて、学校側のみならず教育委員会側からもしばしば感謝の言葉をいただいた経験があるだけに、まるで私たちの支援活動に不信感をいだいているような学校・教育委員会に、私たちこそ不信感をつきつけたい思いである。
ところで、2013年に策定された「いじめ防止対策推進法」では、その第17条に以下のような規定がある。
(関係機関等との連携等)
「第17条 国及び地方公共団体は、いじめを受けた児童等又はその保護者に対する支援、いじめを行った児童等に対する指導又はその保護者に対する助言その他のいじめの防止等のための対策が関係者の連携の下に適切に行われるよう、関係省庁相互間その他関係機関、学校、家庭、地域社会及び民間団体の間の連携の強化、民間団体の支援その他必要な体制の整備に努めるものとする」
この規定からすれば、民間団体の支援も連携先として含まれており、はじめから民間団体を排除することは予定されていない。学校は、いじめ対策の専門機関ではない。それだけにさまざまな機関や組織との連携は欠かせない。いじめ被害者の相談支援にあたっている民間団体は、何よりも被害者に寄り添った対応を心がけており、その活動経験はいじめが発生した際の対応・取り組みにとって、貴重な経験でもある。
私たちは、いじめが起きた際の、学校側との話し合いで、いつも責任追及ではなく、加害者と被害者との関係の修復を大切にしてきた。関係の修復が、いじめ被害による心身の傷の軽減と、その後の学校復帰への近道であると考えているからである。いじめはしばしば被害者の心を深く傷つけ、これまで楽しかった学校生活を奪っていく。奪われた学校生活によって、さらに心は傷つけられ、長いながい苦しい生活を余儀なくされることが少なくない。そうした事態を未然に防ぎ、少しでも心の傷を軽減するためには、適切かつ早急な対応が不可欠である。そのために、保護者だけでなく、その支援者も交えた話し合いを認めてほしい。
(山本 馨)

