新潟市へ「いじめ防止対策専門委員会のあり方に関する要望書」を出しました

新潟市の女子児童いじめ事案について市の第三者委員会(実態はいじめ防止対策専門委員会)は2年もの時間を費やしてやっと結果を発表しました。
この2年の間、いじめのない環境を構築し児童の学校復帰の対応を取るべき市や学校は第三者委員会の調査中を理由に対応を先延ばししてきました。今や当該児童は中学生となり当時の学校教員も異動してしまっています。今更、この調査結果が出て学校が動き始めても遅すぎます。何のための第三者委員会なのかと問いたいところです。
2025年6月9日 11:30 新潟市教育委員会教育支援課に於いて、調査を迅速に進めていただくよう、要望書を提出してきました。ここにその内容を掲載します。

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「いじめの重大事態の調査に関すガイドラインの改訂」をどう読むか

 いじめの発生件数が増加する一方である。自殺や不登校などの、いじめによる生命や心身に重大な被害を生じさせる「重大事態」も10年前に比べておよそ5倍となって、2022年度は923件に及んでいる。こうした状況を背景に、今年(2024年)8月30日に、文部科学省は「いじめの重大事態の調査に関すガイドライン」(2017年3月策定)を改訂した。

 改訂前のガイドラインは、2013年に施行された「いじめ防止対策推進法」や「いじめの防止等のための基本的な方針」に則った、重大事態に対して適切な調査を実施するために策定されたものである。文部科学省の説明によれば、この10年間でさまざまな課題が明らかになった上、依然としてガイドラインに沿った調査や取り組みが行われていないケースもしばしば発生しているところから、改訂を行ったとのことである。

 文部科学省は、ガイドラインの改訂の概要について、以下の6点にまとめ、各都道府県教育委員会等に通知している。

  • ① 重大事態の発生を防ぐための未然防止・平時からの備え
  • ② 学校等のいじめにおける基本的姿勢
  • ③ 児童生徒・保護者からの申立てがあった際の学校の対応について
  • ④ 第三者が調査すべきケースを具体化し、第三者と言える者を例示
  • ⑤ 加害児童生徒を含む、児童生徒等への事前説明の手順、説明事項を詳細に説明
  • ⑥ 重大事態調査で調査すべき調査項目を明確化

それぞれの項目の具体的内容は、文末の参考資料のURLにアクセスして、確認していただきたいが、現在、私どもNPO法人子どものオンブズにいがたが支援にあたっている重大事態案件(いじめ自死未遂事案)に関連して、感想を述べたい。

今回の改訂ガイドラインのなかでも、文部科学省がもっとも強調していると思われるのは②の「学校等のいじめにおける基本的姿勢」である。改訂ガイドラインでは「調査の目的」が新たな項目として、「第2章 学校の設置者及び学校の基本的姿勢」から区別されて、「第1章 重大事態調査の概要及び調査の目的」に収められている。それにもかかわらず、改正の概要をまとめている通知のなかでは、②の「学校等のいじめにおける基本的姿勢」の項目で、「調査の目的」をとりあげている。改訂ガイドラインの本文では、この部分は、被害児童生徒・保護者の切実な願いに応えて、事実関係を明らかにして、再発防止策を策定するなどの内容が盛り込まれていた部分である。通知では、そのことにふれず、調査の目的と警察との連携のみをとりあげ、調査の目的は「民事・刑事・行政上の責任追及やその他の争訟への対応を直接の目的とするものではなく、当該重大事態への対処及び再発防止策を講ずることであることから、重大事態調査を実施する際は、詳細な事実関係の確認、実効性のある再発防止策の提言等の視点が重要であることを明記」と記述している。形式的な章立ての問題と思われるかもしれないが、「調査の目的」への文部科学省のこだわりがあったのではないかと思われる。

 このことが何を意味するのか、いじめで重大な被害にあった当事者や関係者の皆さんは周知のことかと思う。いじめによる自殺事案などの場合、教育委員会の設置する第三者委員会が、学校・教育委員会や加害児童生徒・保護者への責任追及にならないよう、適切な調査を行わず、いじめそのものの事実を認定しなかったり、いじめがあったにもかかわらす、自殺との因果関係を否定した報告書をまとめたり、あるいはいたずらに調査結果の報告を遅らせたりしていた事例があとを絶たず、しばしば被害児童生徒の保護者から厳しい批判を浴び、トラブルになるケースが出ていたからである。

 いじめの重大事態に関するガイドラインでは、文部科学省は一貫して、被害児童生徒の保護者に寄り添った対応を求めているにもかかわらず、現実は、必ずしもそうなっていない。だからこそガイドラインの改訂が必要で、調査の目的が裁判対策にならないよう、目的の明確化を再度、確認しようとしたのではなかったかと言える。

 私たちが支援している自殺未遂事案でも、同様のことが指摘できるかと思う。調査委員会の発足から1年半がたって行われた被害児童に対する書面調査で、もう1名の加害児童の追加調査が必要となっている。そのため、報告書のまとめがさらに時間を要することになり、被害児童からも「調査をはやく終えてほしい」との要望が出ている始末である。事案が発生してまもなく2年になろうというこの時期に追加調査とは、調査委員会のこれまでの調査は、いったい何だったのだろうか。自殺未遂の事案が発生した時から、この事実が明らかであったにもかかわらず、調査委員会としての徹底した調査が行われなかったことが、いまさらの追加調査に至っている。

 改訂ガイドラインによれば、重大事態の調査の目的は、「当該重大事態への対処及び再発防止策の提言等の視点が重要」となっている。重大事態への対処では、何よりも被害児童の心のケアなどの支援や、加害児童への適切な指導、支援が中心になるが、2年にもなろうとする長引いた調査で、こうした対応は棚上げされたままになっていると言っても過言ではない。

 徹底した調査も行わずに、なぜこれほどまでに時間がかかっているのか、調査委員会の活動、取り組みに疑問を抱かざるを得ない。その背景に、いじめの事実関係の徹底した調査よりも、いじめと自殺未遂の因果関係にこだわる調査委員会の在り方が関係していたのではないろうか。その点では、改訂ガイドラインの基本姿勢から大きくズレたところで調査委員会が活動していたように思える。

 改訂ガイドラインに関する通知では、留意事項の「その他」の項目で、「令和6年8月30日の時点で既に重大事態調査が開始されている場合においても、個別の事案の進捗状況等に応じて、改訂後の重大事態ガイドラインを踏まえて対応すること」となっている。

 当該自殺未遂事案における調査でも、この通知を遵守して、今後の調査やその取りまとめにあたって、裁判対策を目的とすることなく、被害児童・保護者の意向を尊重した、誠実な対応をしていただきたいと願っている。

(山本 馨)

参考資料

  1. 「いじめの重大事態の調査に関するガイドラインの改訂について(通知)」(文部科学省 2024年8月30日)
    https://www.mext.go.jp/content/20240911-mext_jidou01-000037829_1.pdf
  2. 「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(文部科学省 2024年8月改訂版)https://www.mext.go.jp/content/20240830-mext_jidou01-000037829_3.pdf
  3. 「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン チェックリスト」(同上)https://www.mext.go.jp/content/20240830-mext_jidou01-000037829_4.docx

公務員個人の謝罪は必要ないのか?

 NPO法人子どものオンブズにいがた(以下、子どものオンブズ)が発足して10年になり、あらたな思いでスタートした2023年ですが、子どものオンブズにとっても忘れることのできない支援活動の結果となりました。

 それは元テクノスクール生が、在学中に元指導員から受けたいじめで2017年7月に自死した事件に関する支援の事案です。卒業後も苦しみつづけた青年が繰り返し元指導員に謝罪を求めたにもかかわらず、誠意のある対応を元指導員や県の関係者からしてもらえず、遺書で「あとは警察の方お願いします」とのダイイングメッセージを残して亡くなった事件です。

 この事件では真相を知りたい遺族の必死な調査活動で、遺族が求めた第三者委員会が設置され、県の当初の調査を覆す、元指導員による暴言、暴力等のハラスメントがあったという調査結果の報告が3月20日に出ました。これをうけ、6月5日には県庁で関係省庁の担当者が、遺族に正式に謝罪しました。

 ただ、遺族が求めた、元指導員個人の謝罪は行われず、ひたすら「組織」としての謝罪を強調し、遺族の怒りをかいました。翌々日に開かれた知事の定例記者会見では、元指導員個人が謝罪しないのは、「本人が認めていない」とのことでした。

 第三者委員会の報告に対して、その調査結果等を「組織」はもとより組織の個人も尊重する義務があるなかで、義務違反を平然と行っている元指導員に対し、違反を容認する「組織」に、遺族のみならず多くの県民が「おかしさ」と県政への不信感を抱いたのではないでしょうか。遺書で名指しで告発した元スクール生や遺族にとっては、元指導員の謝罪こそが、最も求めた誠意ある対応でしたから。

 ハラスメントと自殺との因果関係については、調査結果は踏み込んだ結論を出さなかったとはいえ、いじめの事実をなんとしても認めてほしいと願って、5年間も戦ってきた遺族にとっては、おおむね納得のいく調査結果ではなかったかと思いますが、残念ながら元指導員の謝罪なしの不誠実な対応が、調査結果を台無しにしてしまったといっても過言ではありません。

 一般社会の常識では到底考えられない対応なのですが、その背景に公務員個人の賠償責任を認めない「国家賠償法」の論理があるとしか考えられません。公務員個人が安心して職務を遂行するために、

損害を与えた場合でも、「国家賠償法」で公務員個人は損害賠償の責任を負わないで国や自治体が賠償責任を負い、公務員個人に対してはその責任に応じて「求償権」を行使できるというものです。

 今回の事件では、「文書訓告」という懲戒処分にあたらない軽微な処分が、その「求償権」にもとづく処分ということになりました。あまりにも軽い処分です。

 ところで、この「国家賠償法」の論理については、法律の専門家の間でも、遺族等の被害者との修復的解決の観点から、場合によっては公務員個人の賠償責任も認められるとの見解が出ています。今

回の事件の場合、金銭の賠償責任ではなく、「謝罪」を求めているご遺族の心情を考えると、県はなんとしても元指導員に謝罪をさせる必要があったのではないでしょうか。説得できなかった県の対応が残念でなりません。

 結局、遺族は遺書で訴えたいじめの事実が認められたことや、テクノスクールにおける再発防止のための相談窓口の設置などの改善策が策定されたことで、無念さをかかえながらも、区切りをつけることになりました(新潟日報 2023年7月23日)。

 子どものオンブズは、2018年から5年間にわたって遺族の支援を続けてまいりましたが、これにより、その支援も終了することになりました。元テクノスクール生のご冥福とご遺族の今後のご健勝を願ってやみません。

(山本 馨)